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森山愛子の歌謡劇場 新宿の女

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森山愛子の歌謡劇場 新宿の女
昔から新宿に住んでいる男がいる。その親もここに住んでいた。江戸時代から、いや、もっと遠い時代から先祖はここに住んでいた。男は小太りの平凡な男だった。年齢は三十半ばになっていた。
まだ結婚していないどころか、恋人もいなかった。
会社へ行くと男の同僚たちがそわそわしていた。
今度、清純そうな可愛いい、新入社員が入ったという噂話で持ちきりだった。
男には遠い世界の話しにしか聞こえなかった。どう考えても自分にはもてる要素はなく、きっと格好いい男がさらっていくに違いないと思っていた。名前は森山愛子だということだった。

ここに座っていいですか。
急に声をかけられ男は目をしばたいた。噂の主が目の前に座っている。
この偶然はそれだけではなかった。帰りの電車でも一緒になったのだ。
それも電車は混んでいたので、顔は近づき、部分的に身体が触れることもあった。
男は大正時代に建てられたという古びているが、立派な門構えの家の中に入ると、年老いた母親と向き合って膳を並べたが、母親は男の変化に気付いた。
お前、恋人でも出来たのか。やっとお前の価値に気付いた女の子が現れたんだ。
名前は森山愛子って言うんだ。

この可愛いい女の子とどう見てももてそうにない男の組み合わせは社内でも奇異な組み合わせと思われていたが、二人は楽しいデートを重ね、ますます親密になっていった。誰が見ても仲の良い恋人同士だった。二人が大観覧車に乗ったとき、男は森山愛子に言った。僕を見つけてくれてありがとう。一生、恋人が見つからないと思っていた。もし僕に恋人が出来たら恋は一生に一度でいいと思っていたんだ。僕は君のことだけ見て、ほかの女の子のことは見ないよ。
嬉しい。森山愛子はそう言うとガチャガチャで取ったドラエモンのソフビを渡すと男は満面の笑みを浮かべた。
しかし、男は森山愛子が彼に知られないように舌打ちをしたことを気付かなかった。
このアイドルと同時に手足のやけにひょろ長い男が転勤してきていた。
その男は得たいの知れない男で北海道支店から転勤してきたという話だった。
社内の誰も気づかなかったがいつも森山愛子の現れる場所ではその男が誰にも見えないところで彼女を監視していた。

新宿の上空、数千万キロの宇宙に人類の科学では捕捉出来ない円盤が浮遊していて、銀色のつるつるの服を着た二人の宇宙人がいた。森山愛子と手足の細長い男だった。
下等生物の相手をしてくれてありがとう。もうすぐ目的を達成できる。この時間生成装置もあの男の家にある部品を取り返せれば、時間の停止だけではなく、時間の順行、逆行も自由に出来る。全く遠い昔にあの男の先祖が時間生成装置のもっとも重要な部品を手に入れて訳も分からなく家宝として持っていたなんて世の中、何が起こるか、わからないよ。それにしても、恋は一生に一度でいいという言葉を聞いて、笑ったよ。君に心をすっかり奪われているじゃないか。われわれのような高度な文明を持った存在が君と恋人同士だと思っているとは。あの下等生物は、ははは。
森山愛子も笑ったが、その笑いはぎこちなかつた。さあ、時間を止めよう。時間生成装置は重要な部品がなくても時間を止めることだけは出来た。
時間を止めた二人の宇宙人はあの新宿の家に降り立った。静止画のように男も母親も止まったままだった。
見つけたぞ。
この部品のためにつまらない芝居をしていたんだな。
銀色のとかげみたいな衣装をまとった森山愛子は無言だった。
なくなっていた部品を嵌め込んだ時間生成装置はまた動き始めた。
規律違反をおかしてもいいですか。森山愛子は突然口を開いた。
森山愛子は時間生成装置を順行させた。
あの古風な家の中の映像が映し出された。
一年後、男の机の上には、ドラエモンのソフビがのっていた。
そして十年後も
月星夜
男の家の玄関には下等生物の人間に生まれ変わった森山愛子が星の明かりの下に立っていた。
玄関の中には明かりがともっている。
森山愛子は玄関の呼び鈴を鳴らした。