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森山愛子の歌謡劇場 国際線待合室

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森山愛子の歌謡劇場 国際線待合室
どこにでもあるようなクリ-ニング屋の二階にSPPシ-クレットピ-スプロダクトの日本支部があった。
日本支部長の丹波哲郎はふたりの部下、草なぎ剛と春香クリスティ-ンを前にして言った。
マッドMOが日本に来ている。
草なぎ剛の顔は引きつった。
マッドMOは漫画で言えばゴルゴ13のような存在だ。
殺しの依頼をしくじったことはない。しかし、誰もマッドMOの実態を知らなかった。
一体、何の目的で。
日光中禅寺湖の湖畔に湖畔邸病院があるのを知っているか?
そこに政府の肝いりで匿われている***氏がいる。
今度のアメリカと中国の密約の立役者だ。
彼が暗殺されれば深刻な事態が生じる。
***氏を守れと。
沈黙が生じた。
二人はその仕事があまりにも困難を極めていることを知っているからだった。
心配するな。アメリカ本部から MAKがすでに日本にもぐり込んでいる。
MAKが
草なぎ剛の顔はバラ色に輝いた。
MAKは草なぎくんにとっては憧れの人だからね。
春香クリスティ-ンが軽い嫉妬をまじわせて言った。MAKはSPPの伝説の人である。
しかし その実態はマッドMOと同じように誰も知らなかった
草なぎ剛春香クリスティーンが湖畔亭病院に着くと、白衣を着た看護婦が待っていた。
血液がたりません。あなたの血液型は?
草なぎ剛は、何故か、胸の高鳴りを覚えた。その看護婦を遠い昔から知っているような気がしたからである。
胸にはネームバッチがついていて、森山と書かれていた。
あんた、なに、見とれているのよ。
私たちの身分証明書に血液型が書かれているじゃん。
春香クリスティーン草なぎ剛を激しく叱責した。しぶしぶ身分証明書をとりだした草なぎ剛は森山という看護婦に強く袖を引っ張られた。
Rhマイナス 、あなたの血をください。お連れの方もついて来てよろしいですよ。
いいですか。さしますよ。
血、採られちゃった。

お前、なに、でれでれ、してんだよ。春香クリスティーンは草なぎの頬を五六発叩いた。
警護の依頼をされた***氏は病室にはいず、湖を望む美しい西洋庭園で朝のお茶を楽しむ時間だという。
お茶とケーキを運ぶ係のあとをついていけば***氏のところへ行けるというので、係のところへ向かおうとすると目に見えない影がケーキと紅茶載せたワゴンの前を通りすぎたような気がしたが、ふたりは目の錯覚だと思った。
***氏は偽装の病人だったからピンピンしていた。
君たちがSPPから派遣された諜報部員かい。
***氏が紅茶茶碗を口に運ぼうとしたとき茶碗と***氏の頭が吹き飛んだ。
何をするんだ。
ふたりが振り向くとライフルを構えた、あの看護婦が立っていた。
チキショー、チキショー。
草なぎ剛が泣きながら森山という名札の看護婦の方に向かっていくと、
空から縄梯子がするすると降りて来て、その看護婦はヘリコプターの中に消えていった。
チキショー、チキショー、お前が殺人者、マッドMOなのか。森山さぁぁん。
森山さぁぁん。は余計なのよ。
春香クリスティーン草なぎ剛の頭をぺちと叩いた。
なんだ、これ。
ふたりの足元にトランプが1枚、落ちている。
ダイヤのエースには書かれていた。 誰が味方なのか、敵なのか、ははーん。
なんだ、これは。
森山さぁぁん。
それが余計なのよ。春香クリスティーン草なぎ剛の頭をまたぺちっと叩いた。
********
残念なことに***氏は殺された。SPP日本支部長、丹波哲郎は眉ねをひそめてふたりの諜報部員たちを眺めながら言った。
しかし、喜ばしいことがある。この暗殺により、マッドMOの行動の軌跡がぼんやりと掴めるかも知れないということだ。
支部長、何故、二発の銃弾が撃たれたのですか?あの看護婦がマッドMOなんでしょうか?
うちの知り得た情報では、
あの看護婦の名前は森山愛子、看護婦のかたわらに演歌歌手もやっている。
彼女がマッドMOだなんて、殺人鬼だなんて。
おーーーい、草なぎ、何をぼんやりしてるんだ。
本当 、馬鹿みたい。草なぎくん、あの看護婦に血を抜かれてから少し、変よ。春香クリスティーン草なぎ剛の袖を引っ張った。
マッドMOは日本に来てから、ここに寄っている。
草なぎ剛春香クリスティーン動物愛護団体の小さな建物を尋ねた。
そこで得た情報によると確かに変わった人物が来たが、用件は忘れてしまったということだった。
おっ、あれは。
草なぎ剛はあの女性を見つけた。
春香クリスティーンに知られないように、その車に近づいた。
あなたはマッドMOなのですか?
その問いには答えず車はものすごい勢いで走り出した。
******
ちょうどその頃SPP日本支部丹波哲郎にシカゴにある本部から電話がかかってきた。
なるほど、そうですか。ジェローム・レバンナ博士の消息はわかりましたか。
信じられないが事実なんですね。
その夜
丹波哲郎はふたりに召集をかけた。
三センチの装甲鉄板に武装されたリムジンに乗り込んだ三人は夜の東京を羽田空港にむかった。
草なぎくんはあの森山という看護婦がマッドMOで***氏を殺したんじゃないかと思って悩んじゃているんです。
リムジンのハンドルを握っまま前を向いている丹波哲郎はふたりの顔も見なかった。
なんで 悩む必要がある。
やがて、夜の闇にクラゲのように光る羽田空港の前に止まった。
その前には動物病院の車が停まっていた。
あれだ。
 三人はマシンガンを持つとその車に近づいた。すると、向こうからマシンガンの銃声が響いた。
信じられないことに、金色の小さい猿がマシンガンを持って立っている。
猿のほうが身のこなしが軽いので、三人は車の影に隠れるほかしかなかった。
屋根の方から、声が聞こえた。
あんたの最後よ。マッドMO。
そこにはあの看護婦が立っていた。
金色の小さな猿はMAKのライフルに頭を撃ち抜かれて倒れた。
紅茶茶碗を撃ったのはMAK
、つまり森山愛子だった。
紅茶茶碗に毒が入っていたからだ。頭を打ち抜いて殺したのはマッドMOだった。
マッドMO,それは極度に発達した医学が生んだ悪魔だった。
猿の中に人間の人格を移植した悪魔だった。
MAKの正体がわかった今、森山愛子は日本にはいられなかった。
敵なのか、味方なのか。
私のこと、嫌い、好きって聞いてきたのよ。
春香クリスティーンは隣にいる草なぎ剛に声をかけた。
MAK、こと森山愛子をのせた飛行機はテールランプの赤い光を夜の闇に残しながら飛び立っていった。